みなさん、こんにちは。
司法書士・行政書士の松崎充知生(まつさき)です。
今回は、登記名義を訂正する措置として 真正な登記名義の回復 について書いていきます。
以下ご覧下さい。
引渡し当時の登記名義を間違えてしまった場合どうするか?
「新居先の不動産を夫と妻がそれぞれ自己資金を用意して購入したが、登記名義は夫単独の名義で登記してしまった。」
不動産の引渡しを既に終えていて、これから確定申告をしようとする買主様からこのようなご相談をいただくことがあります。
登記簿上の所有者と本当の所有者が異なっている場合、当時の所有権移転登記を一旦抹消させて、再度正しい所有者に所有権移転登記を申請し直すか、所有権更正登記を申請して登記内容を修正することになります。
今回のケースでは、夫婦共有名義にするべきところを、夫単独名義に登記しています。
登記簿上の所有者が全くの別人ではなく、登記内容の一部に間違いが生じていることになる為、所有権更正登記をすることで登記内容を修正し直すことになります。
しかし、これには当時の売主様や住宅ローンを利用した金融機関の協力(署名捺印と書類の提供)が必要になってきます。
これは不動産の引渡し当時の手続が最初から間違っていたものであるから、改めて当時の売主様と協力して正しい手続を踏むべきとされているからです。
また、金融機関は所有者の変動後に登記簿上に現れており、引渡し当時の所有権の登記内容に変更が生じるとある程度不利益が生じる為、改めて金融機関に承諾の機会を与えることにより、金融機関の権利保護を図るようになっています。
真正な登記名義の回復とは?
引渡し手続がだいぶ前に完了していると、今更ながら当時の売主様と連絡を取り、再度必要書類を用意していいただくことは頼みにくいでしょう。
当時の売主様に改めて発行から3ヶ月以内の印鑑証明書を用意いただき、当時の引渡し手続に利用した権利証(登記済証または登記識別情報)が必要になります。
特に権利証は、引渡し手続が完了している為、当時の売主様が効力を失った権利証として既に破棄してしまっている事も考えられます。
破棄されている場合は権利証に代わる措置として別の手続を踏むことになり、別途費用が発生してきます。
住宅ローン利用先の金融機関は融資実行を終えていますが、所有権更正登記がされると、抵当権の効力が縮小してしまいます。
その為、所有権更正の登記申請には金融機関の承諾書が必要になりますが、これを得ることは難しいでしょう。
仮に承諾書を取得して更正登記ができたとしても、新たに妻名義になった部分の抵当権を再度設定することになり、これにも別途費用が発生します。
当時の売主様や金融機関の協力が得られない場合には、真正な登記名義の回復の登記を行います。
真正な登記名義の回復とは、登記簿謄本に記載されている所有者が、本当の所有者と異なる場合に登記名義上の所有者から本当の所有者名義に当時の売主様や金融機関の協力なくして移転させる登記のことを言います。
真正な登記名義の回復は、当事者間のみの署名捺印で登記申請します。
前述の例では夫名義からの所有権一部移転登記により、妻が自己資金を出した分の共有持分を取得することになります。
真正な登記名義の回復を利用する際の注意点
真正な登記名義の回復の登記は、必要書類が揃っていれば登記自体は完了しますが、以下の点に注意が必要です。
登記費用が割高になる。
真正な登記名義の回復による所有権移転をする登記申請は、売買や相続のケースとは異なり、登録免許税の軽減措置は利用できませんので、登記費用が割高になります。
不動産の固定資産税評価額に1000分の20を掛けた額が登録免許税です。
不動産の固定資産税評価額が1000万円である場合、登記申請時に納付する登録免許税は20万円です。(別途、司法書士報酬や実費もかかってきます。)
所有権一部移転により、持分を移転させる場合は、
不動産の固定資産税評価額に「移転すべき持分」を掛けて、1000分の20を掛けた額が登録免許税です。
移転登記が「贈与」とみなされた場合、税金が発生する。
法務局は申請された登記が完了すると税務署へ登記情報を提供することになっています。
売買、相続、贈与等により所有権移転で、税務署が疑義があると判断した場合、不動産取得者に対してお尋ね書面を送付することがあります。
真正な登記名義の回復も同様で、登記申請から4~5ヶ月後を目安に税務署から「登記名義変更についてのお尋ね」という書面が送付されてくることがあります。
その書面は真正な登記名義の回復によって名義変更をした理由、その添付書類の内容、回答者の住所氏名を記入する項目があり、期限以内に回答をお願いする旨の記載があります。お尋ね書面についての回答は任意となっていますが、今後、税務調査の対象にならないように回答しておいた方が無難です。
自己資金を出していた等の実体を証明できるものがあれば何も問題はありません。
真正な登記名義の回復は、登記内容を修正するために行われるものなので、通常、贈与税や不動産取得税はかかりません。
しかし、不動産購入当時、自己資金の出していた等の実体が無いのに、将来のために登記名義を変更しておきたいという理由で、真正な登記名義の回復により登記名義を移転した場合、税務署による調査で実質的に「贈与」とみなされると、贈与税や不動産取得税が発生します。
真正な登記名義の回復は、贈与税等を免れるために悪用されるケースが結構あります。
税務署からお尋ね書面があった場合に備えて、自己資金を出していた証拠として振込明細や通帳等を保管しておくべきでしょう。
真正な登記名義の回復は、あくまで間違っている登記内容を本当の登記内容に修正する為の措置であることを理解しておきましょう。
住宅ローンを利用している場合、金融機関に事前に連絡しておく
真正な登記名義の回復は前述の通り、当事者間の署名捺印のみで登記申請自体は可能です。
しかし、対象不動産に住宅ローン利用先の金融機関の抵当権が設定されている場合、登記申請前に金融機関に登記申請する旨を知らせておくべきでしょう。
これは住宅ローン支払い中に所有権を移転させることは、金銭消費貸借契約違反になり、住宅ローン一括返済を求められる対象になってしまうからです。
事前に連絡をしておき、金融機関から求められる変更書類の提出に協力することで、そのような事態を避けることができるでしょう。
金融機関から承諾を得られた段階で登記申請をすることになります。
登記申請自体には金融機関は関与してきませんが、住宅ローンの約款上問題無いか再度内容を確認しておきましょう。
登記原因証明情報の記載例
真正な登記名義の回復の登記原因情報の記載例(夫単独名義→夫婦共有名義)です。↓↓↓
登記原因証明情報
1.登記申請情報の要項
(1)登記の目的 所有権一部移転
(2)登記の原因 真正な登記名義の回復
(3)当 事 者
権 利 者 鹿児島県鹿児島市●●
持分2分の1 C
義 務 者 鹿児島県鹿児島市●●
B
(4)不動産の表示 後記のとおり
2.登記の原因となる事実又は法律行為
(1)前所有者A(住所 東京都中央区□□)は、後記の本件土地を所有していた。前所有者はB及びCに対し、令和 年 月 日、本件不動産を売却した。
(2)上記(1)に基づき、前所有者・B及びC間の売買を原因とする所有権移転登記をすべきところ、誤って B を所有者とする所有権移転登記がされた。
(3)上記(2)の誤りを是正するため、前所有者は C のために、B び C の共有とする所有権更正登記を行うべきところ、本件不動産には、D 銀行名義の抵当権が設定されており、Bの所有権登記の更正についての前所有者及び D銀行からは登記手続の協力が得られない。
(4)よって、B は、C に対し、本件不動産につき真正な登記名義の回復を原因として移転する。
令和5年 月 日 鹿児島地方法務局 御中
上記の登記原因のとおり相違ありません。
(権利者) 鹿児島県鹿児島市●●
C
(義務者) 鹿児島県鹿児島市●●
B
不動産の表示
所 在
地 番
地 目
地 積
今回はここまでです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
ではまた。
コメント