NETFLIXドラマ「地面師たち」から見る司法書士業務

日常
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みなさん、こんにちは。
司法書士・行政書士の松崎充知生(まつさき)です。
 

司法書士業務関連で注目しているドラマがあります。
令和6年7月25日からNETFLIXドラマ「地面師たち」が公開されました。

地面師たち | Netflix (ネットフリックス) 公式サイト
100億円の市場価値を持つ希少な土地に目をつけた地面師詐欺集団は、あらゆる手段を使って前代未聞の巨額詐欺を成功させようとするが...。

交渉役、法律屋、図面師、手配師等が属する地面師集団が、他人の土地の所有者になりすまして虚偽取引で億単位のお金をだまし取る不動産詐欺事件を描いたドラマです。

このドラマは、2017年に大手住宅メーカーの積水ハウスが東京都品川区西五反田の旅館「海喜館」の土地売買において地面師グループに55億5000万円を騙し取られた実際の事件をモデルに作られています。

地面師グループ役のキャストは以下の通り。
辻本拓海(演:綾野剛)
不動産売買の交渉役
ハリソン山中(演:豊川悦司)
地面師グループのリーダー
竹下(演:北村一輝)
土地の初期情報を集める図面師
後藤(演:ピエール瀧)
元司法書士の法律屋
麗子(演:小池栄子)
地主役を用意する手配師
長井(演:染谷将太)
公的文書を偽造するニンベン師 

原作は新庄耕さんの小説「地面師たち」です。

実際にドラマを観てみると、不動産の指値交渉、当事者を急かす流れ、社内決裁の大変さ、地面師による必要書類の周到な準備などがリアルに描かれており、非常に興味深いです。

ドラマは全7話で、第1話で恵比寿の土地(10億円)、第2話以降で港区高輪にあるお寺の駐車場(100億円以上)、第3話の回想シーンで川崎市多摩区登戸の土地(3億8000万円)が不動産取引の対象地として出てきます。

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第1話目から緊張感ある不動産決済手続が描かれていますが、通常、不動産売買には以下の書類が必要になってきます。

【売主様】
・本人確認書類(運転免許証、マイナンバー、パスポート等)
・実印
・権利証(登記済証・登記識別情報)
・印鑑証明書(発行から3か月以内)
(必要に応じて)住民票
・最新年度の評価証明書(または固定資産税納税通知書内の課税明細)
・建物の鍵
・売却諸費用(登記費用・仲介手数料等)  等

【買主様】
・本人確認書類(運転免許証、マイナンバー、パスポート等)
・認め印(※融資利用があれば実印)
・住民票
(融資利用があれば)印鑑証明書
・売買代金
・購入諸費用(登記費用・仲介手数料等)   等

地面師は売主の立場でこれらの必要書類を巧妙に用意します。
不動産売買の場では、まず最初に売主様、買主様から司法書士に対して登記の必要書類を提出します。

「地面師たち」 第1話の本人確認シーン

司法書士が必要書類をもとに「人・物・意思」の確認を行います。
この確認内容は多岐に渡ります。
・売買対象物件は合っているか
・売主様、買主様は本人で間違いないか
・売主様に売却する意思があるのか
・買主様に購入する意思があるのか

・本人確認書類は有効期限内か
・印鑑証明書が原本かどうか
・印鑑証明書は発行から3ヶ月以内か
・実印が印鑑証明書の印影と一致するか
・売主様の登記簿上の住所と氏名が繋がるか
・提出いただいた権利証が有効なものか
・買主様の現住所はどこか(登録免許税の軽減は利用できるか)
・住民票にマイナンバーの記載が無いか

・押印書類の印影がはっきりしているか  等

司法書士がこれらの確認を済ませた後に、買主様が売主様の指定銀行口座に売買代金を振り込みます。
振込完了後に司法書士はその日中に登記申請を行い、売主様買主様からいただいた書類を法務局に添付書類として提出します。
申請書と添付書類を受け取った法務局が内容を確認し、不備があれば、まずは申請した司法書士に対して補正を命じます。補正で対応できない場合は、法務局が即却下するわけではなく「取下げ」を促してくることもあります。
一定の期間を設けても不備の対応がなされない場合は、法務局が登記申請を却下します。

地面師が絡む不動産登記申請は申請の権限を有しない者の申請という却下事由に該当します。(不動産登記法25条4項

ドラマでは法務局からの却下決定書は買主である不動産会社に直接届いていますが、実務では司法書士が登記申請した場合は司法書士宛てに届くようになっており、司法書士から却下の事実を知らされることになります。
なお、偽造された書面は、犯罪防止や捜査機関の証拠となる為、法務局から還付されることはありません。

ここまでくると、買主様は売買代金を支払ったのに登記名義を取得できていない状態になり、当然ながら土地の所有権を本物の不動産所有者を含む第三者に主張することはできません。

損害を被った買主様の責任追及は売主様だけに限らず、当時本人確認をした司法書士にも及んできます。責任追及を受けた司法書士は、売主様に対してどこまでの確認を行ったが問われることになります。

このように不動産売買の「本人確認」はそれだけ重大なことなんですね。

ドラマのように不動産会社や売主様本人が直接の面談を避けている、打合せに中々出てこない場合は特に注意が必要です。

地面師のケースはレアですが、不動産所有者が認知症で売却の意思判断ができない、所有者本人は売りたくないのに親族が勝手に売却しようとしている場合は実際にもよくあるケースであり、本人確認ができない為、そのまま不動産売買を進めるべきではありません。

地面師等のなりすましの疑いがある場合には、打合せをしていく過程で、売主様にしか知り得ないことを会話の中からでも確認していくことが大切です。

例えば、
近隣の商業施設
ゴミ出しの場所

電気・ガス・水道の契約先
自治会等の地域コミュニティ
台風時の浸水状況
固定資産税額

(マンションの場合)管理費・修繕積立金等、毎月負担しているもの 等です。
これらは売買契約締結時や決済時において売主様・買主様間でよくやり取りされています。

ただ、一つでも答えられなかったら本人ではないと断定するのではなく、会話の中で不自然な点が無いかを確認する為のものということを念頭に置いておきましょう。

また、取引相手からあらかじめ印鑑証明書や住民票を受け取っている場合は、コピーを取ってその写しの用紙全体に「複写」「複製」「コピー」等の文字が浮かび上がってくるか確認してみましょう。印鑑証明書や住民票にはコピーを取ると、偽造防止措置としてけん制文字が表示されるようになっています。

コンビニ発行の印鑑証明書や住民票は裏面にも偽造防止措置がなされており、 裏面部分(スクランブル画像のある部分)をJPEG形式でスキャンして、そのデータを以下のような複合画像表示システムを使って、印鑑証明書や住民票の表面記載の内容が表示されるか確認してみましょう。

証明書復号画像表示システム
証明書復号画像表示システム

赤外線カメラを持っている方は、コンビニ発行の印鑑証明書や住民票の裏面にある桜の花の画像に当てて、「証」の文字が浮かび上がってくるか確認をしてみるのも良いでしょう。
実はこの桜の花は偽造防止検出画像になっています。

  

私も色んなケースの不動産取引に立ち会う機会がありますが、売主様が権利証を無くされてる不動産取引では、改めて本人確認の重大さを感じます。

「地面師たち」 第1話の本人確認シーン

ドラマのように売主様に物件写真を提示して「どちらがご自宅ですか?」といった確認までは通常行いませんが、司法書士は氏名、住所、生年月日、干支、権利証紛失理由、当時の不動産取得の経緯、近隣の状況などは色々な角度から細かく確認した上で、「本人確認情報」を作成します。

司法書士が作成する本人確認情報は権利証に代わるものになるので、職印証明書、売主様の本人確認書類のコピー、その他の添付書類と合わせて登記申請を行い、法務局が内容を相当と認めれば、通常通り登記処理がなされます。

権利証が無い場合の措置として、登記申請後に法務局が売主様宛に確認通知を送付する「事前通知」の制度(不動産登記法23条)もありますが、売主様が一定期間内にその確認通知に対応しないと登記申請が却下または取下げになるリスクがある為、売買の不動産取引ではあまり利用されていません。

また、権利証が無い場合のその他の措置として「公証人による本人確認」もあり、決済場所から公証役場が近くにある場合は利用されるケースもありますが、移動の負担やお昼時間(午後12時~午後1時)は対応していない点等から利用は少なめです。

巧妙に偽装された書類を見抜くのは非常に難しいですが、司法書士としての職務を全うし、不動産取引の安全性を確保することがお客様から求められるので改めて気を引き締めて業務に取り組もうと思いました。

  

みなさんもご興味があれば、是非「地面師たち」を観てみてください。

今回はここまでです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

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