遺産分割前の相続預金払戻し制度【民法第909条の2】

相続

みなさんこんにちは。司法書士・行政書士の松崎充知生(まつさき)です。

銀行の預金口座を所有している人が死亡し、銀行がその事実を知ると、その預金口座が凍結され、相続人はお金を引き出すことができなくなります。この預金口座のお金を引き出すためには、相続人全員が遺産分割協議書を取り交わした上で、必要書類一式を銀行に提出しなければなりません。

相続人間で遺産の分け方を決める時間も無く、そうこうしているうちに故人の葬儀費用、相続人の生活費の支払いをどうするべきか、困ってしまった方もいらっしゃるのではないでしょうか。

2019年(平成30年)7月1月に民法が改正され、遺産分割「前」の段階でも、緊急的な措置として、相続人が単独で故人の相続預金を一部払い戻すことができるようになりました。
この改正から4年が経過しましたが、まだまだ周知されていない制度になりますので、

今回は 遺産分割前の相続預金払戻し制度 について、解説いたします。

故人の預金口座の凍結時期は…

故人の預金口座は、銀行が口座名義人の死亡を知ったとき、凍結されます。よく間違われるのですが、死亡届を役所に提出したからといって、その事実が当然に銀行に通知されるわけではありません。遺族の方が銀行に故人死亡の連絡を入れることで、初めて銀行が死亡事実を知り得ることになります。

「銀行に死亡の連絡さえしなければ大丈夫だろう」と思って、勝手にATMから故人のお金を引き出すことは、相続人間の信頼関係が崩れ、遺産分割協議を進めることができなくなる可能性が出てくる為、あまり好ましい行為ではありません。実際の相続相談を伺っていると、このようなケースは少なくありません。

相続預金についてこれまでの判例は…

当初、相続預金については、当然に分割される為、遺産分割の対象にはならないとされていました。(平成16年4月20日最高裁判例)この頃は遺産分割前であっても相続人が自分の相続分相当の金額を払い戻しすることが可能でした。

しかし、その後平成28年1月19日の最高裁の決定により、相続預金は遺産分割の対象になるとの判断がなされたので、凍結された相続預金は、遺産分割協議が完了するまでの間は、相続人が自分の相続分相当の金額の払戻しはできなくなりました。

そこで、改正民法では、遺産分割前の相続預金払戻し制度が新設されました。

故人の相続預金について、相続人は他の相続人の協力なくして銀行に一定金額の払い戻しができるようになりました。この制度は改正民法にも規定されています。

第九百九条の二(遺産の分割前における預貯金債権の行使)

各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の三分の一に第九百条及び第九百一条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。

e-Gov法令検索 民法 より引用

この規定を見ても、

何のこっちゃ・・??と分かりにくい表現になっていますので、以下、払戻し額について見ていきます。

払戻しを受けられる額は…

遺産分割前の相続預金払戻し制度 により払戻しを受けられる額については、以下の通りです。

相続開始時の預貯金額 × 1/3 × 払戻しをする相続人の法定相続分

ただし、一つの銀行での払戻し額の上限は金150万円までです。第909条の2にある「標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額」とはこの150万円のことを指します。

また、複数の銀行に相続預金がある場合は、その銀行ごとに上記計算を利用することができます。

同じ銀行に複数の口座(普通預金、定期預金など)があっても、払戻限度額は金150万円までです。

具体例: A銀行の相続預金600万円、B銀行の相続預金1200万円、払戻しをする相続人の法定相続分が2分の1の場合

A銀行  600万円 × 1/3 × 1/2 = 100万円 < 150万円

B銀行 1200万円 × 1/3 × 1/2 = 200万円 > 150万円

A銀行では金100万円、B銀行では金150万円(計算式で150万円を超えるので上限150万円が適用)の払い戻しをすることが可能です。


 

その後の遺産分割協議への影響は…

この制度を利用して相続預金の払戻しがされた場合には、払戻しを受けた相続人は遺産の一部分割によりこれを取得したものとみなされます。つまり、後に行われる遺産分割協議の際に改めて清算をすることになります。

例えば、この制度により払戻しを受けた額が、遺産分割協議によってその相続人が取得する財産額を超える場合、その相続人は、遺産分割協議において超過部分について他の相続人に、自己の金銭(代償金)を支払うことで清算をしていくということです。

必要書類

必要書類は以下のとおりです。

  • 故人の戸籍謄本、除籍謄本、全部事項証明書
  • 相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明書
  • 相続預金の払い戻しをする方の印鑑証明書

上記書類を銀行へ提出することになります。これらの書類が必須となりますが、銀行によって提出する書類が異なることがありますので、払戻し制度を利用する際、あらかじめ銀行に問い合わせいただき、事前にご確認をお願いいたします。

最後に

いかがでしたか。相続人が2~3人の場合は比較的早めに遺産分割協議を完了させることができそうですが、相続財産が多かったり、相続人が多かったりすると、遺産分割協議を完了させるのに、多大な時間がかかります。緊急的な措置として創設された制度ですので、ぜひご利用をご検討いただければと思います。

本日はここまでです。最後までお読みいただきありがとうございました。

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プロフィール
ブログ管理者
まつさき

埼玉県を拠点とする司法書士・行政書士・宅地建物取引士
鹿児島県出身。9年間、不動産売買仲介の営業職に従事。
契約実績累計400件超を経験し、マンション業界への社外出向を経て、士業へ転身。元競技ダンサー。
休日はアウトドアや観光スポットへよく行きます。
主に不動産売買、相続手続、会社に関する法律情報を発信していきます。

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