みなさん、こんにちは。司法書士・行政書士の松崎充知生(まつさき)です。
今回は 司法書士の個人受任 についての話題です。
どこかの組織に勤務している司法書士や独立開業されている司法書士で新たに司法書士を雇用する方は検討するべき点でもあると思いますので、以下書いていきます。
個人受任とは
個人受任とは、司法書士事務所・司法書士法人に勤務している司法書士(使用人司法書士)が、事務所・司法書士法人としてではなく、その司法書士個人の名前で顧客から業務の依頼を受けることを指します。
通常、勤務司法書士は、個人事務所・司法書士法人が顧客・関連業者からいただいた案件業務に勤務先の一員として取り組むことになるのですが、司法書士登録をした以上、登記等の司法書士業務ができ、その司法書士個人が自分で顧客を見つけて業務の依頼を受けることが可能です。
しかし、個人受任の取扱いは勤務先の個人事務所・司法書士法人の方針によって異なる為、事前確認が必要になります。
なお、司法書士法人の社員司法書士(役員の位置づけとなる司法書士)は、司法書士法42条の規定に抵触し、個人受任をすることはできません。
司法書士法 第四十二条(社員の競業の禁止)
司法書士法人の社員は、自己若しくは第三者のためにその司法書士法人の業務の範囲に属する業務を行い、又は他の司法書士法人の社員となつてはならない。
2 司法書士法人の社員が前項の規定に違反して自己又は第三者のためにその司法書士法人の業務の範囲に属する業務を行つたときは、当該業務によつて当該社員又は第三者が得た利益の額は、司法書士法人に生じた損害の額と推定する。
e-Gov法令検索より引用
個人受任案件はどこから発生するか?
個人受任案件が発生するきっかけとして考えられるのは以下のケースです。
- 友人、家族
- 同業者
- 弁護士、税理士、行政書士、土地家屋調査士等の他士業
- 前職(別業界)の同僚、取引関連業者
- 自分が参加した相談会や行事で発生したお客様
- 自分の所属しているコミュニティ仲間 等々
個人の人脈の広さによりますが、何らかの形で自分の職業を外部に公開していると、それを見た方々が相談・依頼されるというケースがあります。
特に司法書士業界は、不動産業界、銀行業界、保険業界と密接していますから、前職でこれらの業界にいた方は、個人的に相談等のお声かけいただけるということが多くあると思います。
私も司法書士になる前は9年間、不動産仲介の営業職をしていたので、ありがたいことに前職の同僚や当時私が担当した契約者の方々から些細な相談や具体的な依頼(主に不動産決済や相続業務)をいただくことがありました。
個人案件を受けるメリット
個人受任をすることで得られるメリットは以下のとおりです。
- 副業として収入アップが見込める。
- 個人の営業能力、コミュニケーション能力を高められる。
- 自分で案件を獲得してきたという成果が自信に繋がる。
- 自分で業務を完結させようとする責任感が高まる。
勤務司法書士は事務処理がメインになってきますが、個人案件を持つことで顧客とやり取りをすることが多くなり、その分だけ個人の能力を高めることができます。
将来的に、事務所内の経営陣、司法書士法人の社員司法書士、独立開業を考えている方にとっては事務処理能力以外にも営業能力等を身に付けていく必要があるので、個人案件を受けていくことは良い機会であると言えます。
個人案件を受けるデメリット
個人受任をすることで得られるデメリットは以下のとおりです。
- 業務量が増える
- 事務所案件と個人案件の両立をさせることが求められる。
(両立できていない場合は事務所からの評価が下がる)
- 何か問題があった場合は個人で責任を負うことになる。
個人案件を受ける場合は、事務所内案件をある程度処理していることが前提となります。勤務司法書士は会社員と同様、個人事務所、司法書士法人に雇用されている立場ですので、事務所内案件と両立していくことが必須となります。
顧客の側に立つと、案件発生元が何かは関係無いので、事務所案件・個人案件を問わず、納期が近い案件から優先して取り組むことが望ましいでしょう。
また、個人案件は、書類作成の代理人が個人になりますので、何か業務に問題があった場合の責任は、個人事務所、司法書士法人ではなく、当然ながら個人で負うことになります。
ご依頼をいただいた以上、ミスなく業務を遂行するべきですが、万が一の時に備えて「司法書士業務賠償責任保険」に加入することも考えておきましょう。
単位会によりますが、司法書士会の入会と同時に1請求につき1100万円分の賠償責任保険に加入していることになりますが、1100万円を超える部分についての保険は任意加入になっています。
個人受任について触れている求人は少ない
弁護士は、個人受任の話は多く出てきますね。
法律事務所に所属しながら、自分自身で訴訟案件を取って来ることが可能ですから、個人で受任して、報酬の中から2~3割程を勤務先の法律事務所に納めるという方法が取られています。
法律事務所の求人情報には個人受任を積極的に認めているところが多く、自由度も高いので、それを意識しながら就職活動している弁護士もいるでしょう。
司法書士はこの手の話をあまり聞きません。求人情報に個人受任について触れているところは少なく、就職活動で実際に司法書士事務所・司法書士法人の面接時に採用担当者に聞いてみないと分からないケースが多いです。
個人受任について元々認めていなかったり、使用人司法書士が自分自身で案件を取ってくるケースがあまり無いからでしょうか。
私も個人受任の可否について意識しながら就職活動をしていましたが、求人情報に触れている事務所が少なく、少し苦戦しました。
司法書士事務所・司法書士法人の求人サイトの中でも「司法書士JOBサーチ」では、各事務所に「個人案件の受任」という求人項目が設けられています。
これから就職活動を始めようとしている方は一度確認してみてはいかがでしょうか。↓↓
個人事務所・司法書士法人の方針は様々
勤務司法書士も個人受任が可能であることは前述した通りですが、個人受任の取り扱いは勤務先の個人事務所・司法書士法人の方針によって異なります。
実際には個人受任を認めているところは少なめです。
人材を雇用する以上は事務所・法人として受けた案件にできるだけ集中して欲しいという願望が先行するからですね。
仮に個人受任を認めているところは、事務所内の備品や経費を使用して業務を行うことになりますから、弁護士と同じように報酬の何割かを勤務先に納めるという取り決めがあります。
また、個人受任は認めていなくても、自己開拓で勤務司法書士が持ってきた案件を、個人事務所・司法書士法人として一旦受任し、報酬の何割かをインセンティブとしてその勤務司法書士に支給するというケースはよく見かけます。
自分の周りだとインセンティブの割合は2~3割が多く、最高で5割を支給する事務所もありました。
中には個人受任とインセンティブを組み合わせて取り決めしている事務所もあります。
勤務司法書士が自己開拓案件を持ってくるという実績がこれまで無かった事務所では、個人受任も禁止、インセンティブすらも無いところもあります。(これはさすがに鬼ですね・・。)
事務所の案件処理のみで、十分な給与収入が得られる雇用形態になっていれば問題無いのですが、個人事務所・司法書士法人には業務量と給与収入が見合っていないところも多々あるので、制度導入が課題になってきます。
このように個人事務所・司法書士法人によって個人受任の方針は様々ですので、就職活動の面接の際に一度確認を取られたほうが良いでしょう。
求人情報には「個人受任は応相談」としているところもあるので、面接時に細かく突っ込んで質問していくことが必要です。
最後に
今回は司法書士の個人受任について書いてみました。こういった個人案件については、その人の人脈や営業能力によって発生度合いが決まってきます。
特に別の業界で社会人経験を積んでいて、転職を機に司法書士になった方は、新しい業界に入ったということで自分の周りの方へ挨拶していくこともありますから、それがきっかけで業務相談等のお声かけいただくチャンスがあります。自分がまさにそうでした。
自分のスキルを磨いていくには良いきっかけになると思いますが、そこだけにこだわらず、あくまで個人事務所・司法書士法人に所属している一員であることを自覚しながらバランスを取って業務に取り組むことが大切ですね。
今回はここまでです。最後までお読みいただきありがとうございました。
ではまた。
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