みなさん、こんにちは。司法書士・行政書士の松崎充知生(まつさき)です。
会社の登記業務をしていると、株式会社や社団法人だけでなく、有限会社の業務に携わることがあります。
有限会社は、かつて認められていた会社形態の一つで、小規模、少人数でも事業を始めやすいという特徴がありました。しかし、会社法の改正により、資本金の額、役員数、株式譲渡等が柔軟に決めることができるようになり、株式会社と有限会社を分ける意味がなくなったことから、2006年(平成18年)から新たに有限会社を設立することができなくなりました。
なお、2006年(平成18年)以後も存続する有限会社を「特例有限会社」と言い、会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(通称、整備法)により、従来の有限会社と同じような性質を持った株式会社として今でも多く存続しています。
理由としては、役員の任期が無いこと、決算の公告義務が無いこと、有限会社を名乗ることで長く事業が続いている証明になること、今設立できなくなったことによる希少性等がありますね。
この有限会社は、株式会社とは異なり、代表取締役が出てくる場合と出てこない場合があります。
有限会社の取締役が一人の場合は、その取締役が代表者です。登記簿上には代表取締役は出てきません。
有限会社の取締役が複数人いる場合でも、原則として各自が会社を代表するので、それぞれの取締役が代表者です。この場合も登記簿上に代表取締役は出てきません。
しかし、取締役が複数人いる場合は、定款、取締役の互選、株主総会決議のいずれかによって代表取締役を決めることができ、その代表取締役が文字通り代表者になります。
このように有限会社では、取締役の中に「代表権を有しない取締役」がいて初めて代表取締役が出てきます。
代表取締役がいる有限会社のうち、代表権を有しない取締役がいなくなった場合には、代表取締役の氏名を抹消する登記申請をすることが必要になってきます。
代表権を有しない取締役がいなくなった場合として考えられるものは以下の通りです。
- 代表取締役ではない取締役が辞任・死亡した場合
- 代表取締役ではない取締役が解任された場合
- 代表取締役ではない取締役が新たに代表取締役に選任された場合
代表取締役の氏名抹消は、役員数の少ない有限会社ではよく出てきますので、注目しておくべきです。
事例1
有限会社の取締役2名(A、B)中、Aが死亡したため取締役がBだけになった場合の申請書記載例
登記の事由
取締役の変更
代表取締役の氏名抹消
登記すべき事項
「役員に関する事項」
「資格」取締役
「住所」東京都〇〇
「氏名」A
「原因年月日」令和〇年〇月〇日死亡
「役員に関する事項」
「資格」代表取締役
「氏名」B
「原因年月日」令和〇年〇月〇日取締役が1名となったため抹消
代表取締役の氏名抹消について、登記完了後にはこのように反映されます。↓

事例2
有限会社の取締役2名(A、B)、代表取締役1名(A)中、Bも代表取締役になった場合の申請書記載例
登記の事由
代表取締役の氏名抹消
登記すべき事項
「役員に関する事項」
「資格」代表取締役
「氏名」A
「原因年月日」令和〇年〇月〇日会社を代表しない取締役の不存在により抹消
※この場合、Bが代表取締役に就任した登記は行いません。
代表取締役の氏名抹消について、登記完了後にはこのように反映されます。↓

有限会社の役員変更は、取締役の入れ替わりに限らず、代表取締役が今後も存在し続けてもいいのかを確認していくことになります。
この有限会社の代表取締役の氏名抹消ですが、取締役が抜けて一時的に取締役一人になったとしても、登記申請の時点で新たな(代表権のない)取締役が就任されていれば、代表取締役の氏名抹消をすることなく抜けた取締役の退任登記と新たな取締役の就任登記申請のみで登記が完了するということが実務上で何度か出てきました。
日頃から時系列通りに登記申請をしていく習慣がある中で、今回のように省略できたことが分かると少し拍子抜けです。
登記の制度上、時系列に沿って順番に登記をしていくことが原則ですが、商業登記では不動産登記ほどの厳密な運用はされておらず、このように省略して登記できるケースがよく出てきますね。
今回はここまでです。
最後までお読みいただきましてありがとうございました。
それではまた。
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